山登りの基本 『計画編』

1 はじめに

先日、知人に趣味は登山だと話したところ「登山って山を登って下りてくるだけでしょ?達成感があるのはわかるけど何が楽しいのか理解できないんだよなぁ。」と言われてしまった。

たしかに山を登り始めてから下るまでに焦点を当てればそうと言えなくもない。しかし、登山の楽しさは歩いている最中にのみあるわけではない。登山の計画を立て準備をし、山行記録をまとめることもすごく楽しい!むしろぼくは登山中よりも登山計画を立てている時の方が楽しい。登山ガイドを読んで関連サイトを閲覧し地形図を眺めているだけでニヤけてしまう。自分の力量を考慮してタイムを概算し実際に歩いた時のコースタイムが計画と一致した時のなんと嬉しいことか。過去の自分が立てた計画通りに現在の自分が行動する。過去と現在の自分の中で変な仲間意識が生まれる。ってことをその知人に話したらドン引きされた・・・

2 山選び

まず、どの山に登るかを決めなければ登山計画は立てられない。後でも述べるが同じ山でもコースによって難易度は様々である。ガイド本などをしっかり見て自分にあった山を選んでほしい。

山選びのポイントは大きく以下の3つ

  • 体力的に登れる山、身近な慣れた山
  • 好きな山、人気の山
  • 地理的に近い山
  • 楽しく安全な登山が第一である。まずは自分やメンバーの技量を越えない山を選ばなければならない。その上で行きやすい近場の山や憧れの山、好きな山を選んでいけばいいだろう。

    3 登山計画書

    登山者がやらなければならないことに登山計画書(登山届、入山届、登山者カードともいう。)の作成と提出がある。以前は登山者のマナーという位置付けだったようだが、近年では一部の山で登山計画書の提出が条例によって義務づけられ、未提出者には罰金などを科すところも出てきた。登山計画書には全国で統一されたフォーマットは無いが、山によってはフォーマットが用意されていたり、登山ポストの位置に定型用紙が置かれていたりと様々である。フォーマットが無い場合はお手製の登山計画書でも構わないがウェブ上に登山計画書の様式やメールテンプレートなどゴロゴロと落ちているのでそちらを利用すると便利だ。インターネットでも提出ができるのだ。北海道の山であるならば道警のサイトが登山計画書の様式の他に装備品チェックリストもあるのでオススメである。

    3−1 計画書作成

    登山計画書を作成する目的は前述した「義務」の他には「確認・共有」の2つと言っていいだろう。

    3−1−1 確 認

    頭の中になんとなく存在する計画を紙に起すことによっていろいろなことが見えてくるようになる。「見える化」ってやつだ。

    計画しているコースは自分たちの力量にあっているのだろうか、コースタイムに無理はないだろうか、装備に過不足はないだろうか、そもそも一緒に登ってくれる友達はいるだろうか。親友と呼べる友人はいるだろうか…etc.

    3−1−2 共 有

    計画書を共有する相手は家族、メンバー、警察である。家族に対しては「パパはこんなにすごいルートを歩くんだぞぉ!」と見せつけるわけではなく家族にとって捜索要請をするタイミングの判断基準となるはずだ。メンバーとは山行中に万一離れた場合に全員が無事に下山するためにも一人一人が登山計画を知っておく必要がある。警察に対してはもちろん救助してもらう時のためだ。自己責任だから救助は要りませんと言っても救助隊は来てくれる。その時に少しでも迷惑をかけないよう最低限のマナーとして警察との登山計画の共有は必要なのだ。

    3−2 計画書提出

    前項でも触れたが作成した登山計画書は然るべき場所に提出しなければいけない。提出する先は登る山を管轄する警察署または登山口に近い駐在所(道警のサイトに掲載されている提出先)、登山ポストがある場合はそこでも良いようだが遭難時の救援隊による即応性のことを考えると登山ポストだけではなく警察署などに提出しておくのが確実だろう。提出の方法は郵送・FAXのほかインターネットでの提出も可能となっている。山によっては独自にインターネット上で提出用フォームが用意されている場合もあるのでウェブでの下調べの際に確認すると良いだろう。

    今回この記事を書いていて知ったことなのだが、登山計画書に提出期限を設定している場所も存在する。ぼくが見たのは日本山岳協会のサイトに掲載されていたもので、群馬県谷川岳で登山する日の10日前、富山県で20日前とかなり厳しい内容となっている。「今週末は天気も良さそうだから◯◯山に登ってみようか」というノリで登山しちゃダメだよということだろう。そもそもそんな準備期間で安全に登れるような山では無いのだとは思うが。幸いなことに北海道では提出期限を定めた条例はまだ制定されていない(H27.5.8現在)ようなので安心して提出してほしい。

    登山時に届け出が必要ならば下山時にも届け出が必要なのでは?と考える方もいるかもしれない。下山届の提出を求める山もあるがほとんどの山では下山の届け出は不要である。登山届を受けた警察がその登山者が無事に下山したかどうかをチェックしているわけでは無いからだ。警察が自ら登山者の帰りが遅いと判断して遭難者の救助に向かうわけではなく、登山者の家族らによる通報によって救助に向かうのである。警察に提出した登山計画書に記載した下山時刻に間に合わないからと焦って下山する必要もないが、救助を要請する立場である家族に対して、ここまでは待ってくれという救助要請の日時をよく話し合っておく必要がある。

    コースの調べ方

    自分のレベルにあった山やコースはどうやって見つけたらいいのだろうか。知人に登山をする人がいるのであればその人に聞くのもいいだろう。ぼくは山のガイド本を基準に山選びをすることが多い。ガイド本というだけあって山の概要や難易度、アクセス方法、略地図、コースごとのポイントなど必要な情報がまとめられている。

    ぼくが愛用している『北海道夏山ガイド』(北海道新聞社)のシリーズは北海道を6つの地域に分け、地域ごとの山々が掲載されている。まず自宅が含まれる地域の本を入手し、日帰りできる山の中から自分でもやれそうなコースを見つける。このガイド本には登山コースを評価した表が掲載されているので一度どこかの山を登ってしまえば次回からはその評価と自分の体験をもとに山選びができるようになる。本を利用してコースを選んだら次はウェブを利用してまずは公式サイトを閲覧し本では得られない最近の情報を入手する。最後に体験記などを閲覧してイメージアップをして山とコースを決定する。

    これをやっただけでも一山越えたような充実感を得ることができる。面倒臭いと思うか楽しめるかはその人次第だろう。一度もやったことがない方は是非試してほしい。


    2015年5月8日